今回は、「氷の城壁」第29話「制御エラー」を読んだ感想考察(ネタバレ有)記事です。
前話については、こちらの「氷の城壁」第28話「失言」のネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。
「氷の城壁」第29話「制御エラー」のあらすじネタバレ
今回の第29話は湊の過去からスタートしていきます。
兄の海斗と姉の渚に比べて渚は大人しい子供だったらしく、母親はそんな渚に海斗みたくになって欲しくないとも言っていました。
自分の我を表に出す事の少ない大人しい湊は、両親からは素直で良い子として扱われていました。
しかし兄の海斗は常に家族と衝突し、自分の夢のために自宅を出る事になってしまいます。
そんな兄の事を理解する事が出来ない湊・・・
なんで他人と衝突するのか?
そこまでしてぶつけたい感情とは何なのかと、他人との衝突に懐疑的な湊は、どうして心が制御できないのかと、人とぶつかり合うのかと、その事が理解できませんでした。
他人に興味が無いと、今まで自分が言われてしまった言葉が心に引っかかってしまいます。
付き合っていた彼女と別れるとき、いつも言われていた言葉でした。
相手の意見を素直に受け止めて別れたのに、なんで感情的になって、酷い事を言うのだろうと、感情を制御できない他人との距離感を感じていた湊ですが、何故か小雪の事になると、いつもの様に感情を抑えることが出来なくなりつつある、自分に戸惑いを感じていました。
以上、第29話「制御エラー」のあらすじネタバレでした。
次の話は、こちらの「氷の城壁」全話ネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。

「氷の城壁」第29話「制御エラー」のネタバレ感想考察
湊がなぜ「他人に興味がない」と言われ続けてきたのか、その根源が家族関係に見えてきました。
兄・海斗のように周囲と衝突してまで自分の意志を突き通す生き方は、合理的で波風を立てたくない湊にとっては「理解不能なエネルギーの無駄遣い」に映っていたのですね。
彼にとっての「素直で良い子」とは、自分の感情を殺して周囲に同調することであり、それは他人との間に深い溝を作らない代わりに、誰とも魂でぶつかり合わないという「諦め」でもありました。
歴代の彼女たちとの別れ際のエピソードが特に象徴的です。
相手の別れ話を冷静に受け入れる湊の態度は、彼自身は「誠実」だと思っていたのでしょうが、相手からすれば「自分という存在が、彼を感情的にさせるほど価値がない」と突きつけられているようで、何よりも寂しく、残酷なものだったのでしょう。
しかし、そんな「感情の制御装置」が、小雪の前ではうまく機能しなくなっています。
あんなに嫌っていたはずの「衝突」や「制御できない心」が、小雪のことになると顔を出してしまう。
それは湊にとって戸惑いであり恐怖かもしれませんが、ようやく彼が「自分の人生」を、そして「他人の存在」を自分事として捉え始めたという、人間としての本当の目覚めのように感じました。
「良い子」という名の諦め、湊が守り続けてきた静かな孤独
「親の言うことを聞く素直で良い子」という評価は、湊にとって美徳ではなく、周囲との摩擦を避けるために自分を消し続けた結果だったのですね。
兄・海斗が激しく家族とぶつかり、夢のために家を出ていくエネルギーを冷めた目で見ていた湊。
彼が衝突を嫌ったのは、単に平和主義だからではなく、「人と向き合うこと」に伴うコストや疲弊を無意識に拒絶していたからではないでしょうか。
自分の意見を持たず、相手に合わせることで波風を立てない。それは一見大人びて見えますが、実は誰とも深く関わらないという「静かな孤独」を自ら選んでいたことと同義です。
誰からも否定されない代わりに、誰からも心に触れられない。
そんな平坦な世界で生きてきた湊にとって、感情を殺して「良い子」を演じることは、自分を守るための精一杯の防衛手段だったのだと感じ、彼の内側にある深い空虚さに胸が締め付けられました。
元カノたちの叫びの正体、理解できなかった「感情の衝突」
湊がこれまで歴代の彼女たちから「酷いこと」を言われ続けてきた理由が、この第29話でようやく繋がりました。
別れ際に物分かりよく、冷静に相手の言葉を受け入れる湊の態度は、彼自身にとっては「波風を立てない優しさ」だったのかもしれません。
しかし、相手からすれば、それは「自分という存在が、彼の心を1ミリも動かせなかった」という絶望的な拒絶に等しかったはずです。
彼女たちが感情を爆発させたのは、湊の心の壁を壊し、少しでも彼の中にある「本音」や「熱量」に触れたかったからでしょう。
しかし、湊はそれすらも「なぜ制御できないのか」と冷めた視線で分析してしまった。
相手がぶつけてきた感情の重さを、彼は「理解不能なノイズ」として処理してしまったのです。
彼がかつて理解できなかった「感情の衝突」の正体――それは、傷ついてもいいから相手と深く繋がりたいという剥き出しの執着でした。
その執着を「無駄」だと切り捨ててきた湊の合理性が、結果として多くの女性を深く傷つけ、彼自身を人間関係の表層に留まらせていたのだと痛感させられるエピソードでした。
壊れ始めた制御装置、小雪だけが揺さぶる湊の「自我」
これまで、どんな人間に対しても「適切な距離」を保ち、感情のスイッチをオフにしてきた湊。
しかし、小雪という存在が、彼が長年メンテナンスしてきた完璧な「制御装置」を根底から狂わせ始めています。
他の誰に何を言われても、別れを告げられても凪(なぎ)のようだった彼の心が、小雪のことになると「どうして」と悩み、戸惑い、熱を帯びてしまう。
これは湊にとって、自分自身の「自我」が初めて外部の刺激によって激しく揺さぶられている状態です。
これまでの彼なら、五十嵐との謎や小雪の拒絶に対しても「深入りしても無駄だ」と合理的に切り捨てていたはず。
それができないのは、もはや彼女が「分析対象」ではなく、彼の心の中心に居座る「かけがえのない個人」になったからです。
感情を制御できない他人を冷ややかに見ていた湊が、自らも「制御できない感情」に突き動かされようとしている。
この皮肉な、けれど人間らしい崩壊こそが、湊が本当の意味で自分の人生を生き始めるための、産声のように感じられました。
以上、第29話「制御エラー」の感想考察でした。
次の話は、こちらの「氷の城壁」全話ネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。


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