今回は、「氷の城壁」第5話「アレルギー」を読んだ感想考察（ネタバレ有）記事です。
前話については、こちらの「氷の城壁」第4話「線と壁」のネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。
「氷の城壁」第5話「アレルギー」のあらすじネタバレ
物語は、小雪の心に深い傷を残した中学時代の回想から始まります。
当時、小雪は同級生の五十嵐翼から向けられる執拗な好意に苦しめられていました。
好きな子をいじるという名目でのデリカシーのない言動を、小雪は「嫌だ」と感じながらも毎日必死に我慢して飲み込んでいました。
しかし、五十嵐はクラスの人気者であり、周囲の女子たちは彼から構われることをむしろ喜んでいました。
自分の苦痛が誰にも理解されず、嫌がっている自分の方が「異端」であるかのように扱われる環境の中で、小雪の心には拭い去れない「対人アレルギー」が刻まれてしまったのです。
場面は現代に戻り、自販機の前で湊に突然声をかけられた小雪は、あまりの驚きに買うつもりのなかった「カレードリンク」のボタンを押してしまいます。
泣き真似をしておどける湊に対し、小雪は「悪意はない」と冷静に伝えますが、内心では自分の領域に土足で踏み込んでくる湊という存在に、かつてのトラウマを重ねて強い警戒心を抱いていました。
そこへ湊の友人たちが合流し、賑やかな男子たちのノリに小雪は圧倒され、さらに心を閉ざしてしまいます。
そんな凍りついた空気を変えようと、湊は小雪との初対面の時の真似をしておどけて見せました。
小雪は自分なりに歩み寄ろうと「面白がって笑う」という対応を選びますが、長年の殻で固まった表情筋は思うように動かず、結果として相手を睨みつけるような不気味な表情になってしまいます。
意図に反して「感じが悪い」という誤解を深めてしまったことに気づかないまま、小雪は一人、動かない顔をマッサージしながらその場を去っていくのでした。
以上、第5話「アレルギー」のあらすじネタバレでした。
次の話は、こちらの「氷の城壁」全話ネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。
「氷の城壁」第5話「アレルギー」のネタバレ感想考察
『氷の城壁』第5話「アレルギー」は、主人公・小雪が抱える「生きづらさ」の正体が、単なる性格の問題ではなく、過去の経験からくる切実な防衛本能であることを突きつけられる回でした。
最も胸を打たれたのは、中学時代の五十嵐翼とのエピソードです。
五十嵐が向けたのは、世間一般では「好意」や「いじり」と肯定的に捉えられがちなものでした。
しかし、それを「嫌だ」と感じる小雪の感覚が無視され、周囲から「愛されていて羨ましい」「冗談なんだから」という善意の圧力で押し潰される様子は、読んでいて息が詰まるほどリアルです。
自分の嫌悪感が「異端」とされてしまう環境で、彼女は自分の心を守るために「何も感じない・誰も入れない城壁」を築くしかなかった。その孤独な決断に、深い共感を覚えずにはいられませんでした。
現代のシーンでは、そんな小雪の前に、五十嵐とは別種ながらも、自分の壁を軽々と越えてくる雨宮湊という「光」が現れます。
湊の存在に「アレルギー」にも似た拒絶反応を示しながらも、小雪が彼に対して「笑って返そう」と決意した場面には、彼女なりの大きな一歩を感じて胸が熱くなりました。
しかし、その結末が「表情筋が動かず、睨んでいるように見えてしまう」という悲しいすれ違いに終わったことが、あまりにも切ないです。
彼女は心の中で精一杯、他者と繋がろうと手を伸ばしたのに、その手は誰にも届かず、むしろ誤解を深めてしまう。
自分の不器用さに気づき、独り顔をマッサージしながら去る小雪の背中には、変わりたいのに変われないもどかしさと、それでも懸命に生きようとする健気さが溢れていました。
対人関係の難しさと、一歩踏み出すことの痛みを鋭く描いた、非常に密度の濃いエピソードだったと感じます。
過去に植え付けられた「対人アレルギー」
第5話で明かされた小雪の中学時代の回想は、彼女がなぜここまで頑なに他人を拒絶する「城壁」を築く必要があったのか、そのあまりに切実な背景を浮き彫りにしました。
最も残酷だと感じたのは、彼女を苦しめていた原因が「明白な悪意」ではなく、周囲から「好意」や「人気者の愛嬌」として肯定されていた五十嵐翼の言動だった点です。
五十嵐が小雪をいじったり、しつこく構ったりする行為は、クラスという小さな社会の中では「仲が良い証拠」や「羨ましいこと」として処理されてしまいます。
しかし、受け手である小雪にとっては、それは自分の尊厳や静かな日常を土足で踏みにじられる苦痛でしかありませんでした。
「なんか嫌だな」という小さな違和感を、周囲の空気に合わせて何度も飲み込み、我慢し続けた結果、彼女の心は修復不可能なほど摩耗してしまったのだと感じます。
さらに辛いのは、嫌がっている小雪を「照れているだけ」と決めつけたり、本音を言えない彼女を「異端」として扱う周囲の視線です。
自分の感覚が誰にも肯定されない絶望感は、単なる「人見知り」を超え、他者そのものを拒絶する「対人アレルギー」へと変貌してしまいました。
この過去を知った上で現在の小雪を見ると、彼女が放つ冷たい言葉や拒絶の態度は、他人を攻撃するためではなく、これ以上自分が壊されないための「必死の生存戦略」なのだと分かります。
第5話のタイトル通り、一度発症してしまった「アレルギー」は、本人の意志だけで簡単に治せるものではありません。
だからこそ、そんな彼女が雨宮湊という新たな「刺激」に対し、恐怖を感じながらも「笑って返そう」と試みたシーンは、かつてのトラウマを乗り越えようとする、血の滲むような勇気だったのだと胸が熱くなります。
過去の痛みに縛られながらも、必死に今の自分を変えようともがく小雪の姿に、深い共感と応援したい気持ちが止まらなくなるエピソードでした。
壁を越えてくる湊への強い警戒心
第5話において、小雪が雨宮湊に対して抱く「警戒心」は、単なる初対面相手への人見知りとは根本的に異なる、もっと生存本能に近い「恐怖」として描かれていました。
小雪にとって、自分が築いた「城壁」の内側は、誰にも侵されたくない唯一の安全圏です。
しかし、湊という少年は、その壁の高さや拒絶のサインをまるで見聞きしていないかのように、あっけらかんと土足で踏み込んでいきます。
自動販売機の前で「なんで無視すんのー？」と距離を詰めてくる彼の態度は、世間一般ではフレンドリーで魅力的なものかもしれません。
しかし、中学時代に「好意」という名目で自分の領域を荒らされた経験を持つ小雪にとって、それは最も警戒すべき、逃げ場のない「暴力性」を孕んだものとして映ります。
特に印象的だったのは、湊が悪い人ではなさそうだと頭では理解しつつも、小雪が「自分とは違う人種だ」と明確に線を引く描写です。
湊の持つ明るさや、他人の懐に飛び込むスキルの高さは、小雪がこれまでの人生で必死に避けてきた「無自覚な領域侵犯」そのものです。
「ていうか、あなた誰？」という彼女の疑問は、まさに自己紹介という手順すら踏まずに、心の鍵をこじ開けようとする湊のスタイルに対する正当な防衛反応だと言えるでしょう。
湊とその友人たちが放つ、陽気で騒がしい空気感は、小雪にとっては自分の平穏を脅かす嵐のような存在です。
そんな「異分子」に対して、小雪がうつむき、暗い顔で沈黙を守る姿からは、彼らに迎合できない自分への卑下以上に、これ以上踏み込まれたら自分が壊れてしまうという切実な悲鳴が聞こえてくるようでした。
この強い警戒心は、彼女が自分を守るために育ててきた大切な防衛機能です。
しかし、そんな天敵とも言える湊に対し、彼女なりに「どう返すべきか」を必死に考え、最終的に歩み寄ろうとした葛藤の深さに、小雪の抱える矛盾と不器用な優しさが凝縮されていると感じました。
届かなかった「笑顔」と悲しい誤解
第5話のラストシーンは、小雪の「変わりたい」という健気な勇気が、無慈悲なほどの「誤解」に変わってしまう、本作でも屈指の切ない場面でした。
湊の友人たちに囲まれ、苦手な陽キャのノリに圧倒されながらも、小雪はそこで逃げ出すのではなく、彼らと「繋がる」ための選択肢を必死に模索します。
湊がおどけて見せたモノマネに対し、「怒る」「照れる」「笑う」という選択肢の中から、彼女が勇気を振り絞って選んだのは、最もハードルの高い「笑う」ことでした。
これは、中学時代に心を閉ざして以来、他人の土俵に立とうとしなかった彼女にとって、城壁の外へ踏み出した歴史的な一歩だったと言えます。
しかし、現実は残酷でした。長年「無表情」という仮面で心を守り続けてきた彼女の顔は、あまりにも凝り固まっていました。
心の中では精一杯の歩み寄りを見せたはずの「笑顔」は、表面上では相手を射抜くような鋭い「睨み」へと変換されてしまいます。この「内面の温度」と「外見の氷のような冷たさ」の絶望的な乖離こそが、小雪という少女の悲劇を象徴しています。
その場に残された男子たちが「感じ悪い」と口々に不満を漏らす中で、当の小雪は自分の失敗を（相手の反応としてではなく）「表情筋の動きの悪さ」として自覚し、一人で顔をマッサージしながら去っていきます。
彼女の努力が誰にも伝わらず、むしろさらに高い壁を築く結果になってしまったことが、見ていて本当に苦しくなります。
「頑張って笑おうとした」という彼女の尊い真実を知っているのは、読者である私たちだけ。この届かなかった笑顔が、いつか湊や周囲の人間たちに「不器用な優しさ」として正しく受け取られる日は来るのか。
小雪の孤独な戦いを、今まで以上に応援せずにはいられない、あまりにももどかしく、そして愛おしいさを感じるエピソードでした。
以上、第5話「アレルギー」の感想考察でした。
次の話は、こちらの「氷の城壁」全話ネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。
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