今回は、「氷の城壁」第89話「バランサー」を読んだ感想考察(ネタバレ有)記事です。
前話については、こちらの「氷の城壁」第88話「併存」のネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。
「氷の城壁」第89話「バランサー」のあらすじネタバレ
前回の楽しいボーリング回から一転し、第89話は少し重い感じで進んでいきます。
湊の過去回が始まる今回は、湊は幼い頃から他人を蔑む人間を見てきたようです。
アイツは嫌ってもいい、と。
アイツは悪く言ってもいい、と。
人を蔑む空気を嫌っていました。
そのせいで湊は嫌われている人間や、孤立している人間に気に掛けるいい人になってしまった湊と、彼が他人を嫌いになれない理由はここから出来上がっていったのでしょう。
相手にヘイトを向ける事を嫌い、他人を嫌うことなく、素直に受け止めてくれる湊は、結果として誰からも好かれていました。
相手がもし自分を嫌っても、それはそれだけと言う事。
彼にとって人を好きになることは、別に特別な事ではなかったのです・・・
以上、第89話「バランサー」のあらすじネタバレでした。
次の話は、こちらの「氷の城壁」全話ネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。

「氷の城壁」第89話「バランサー」のネタバレ感想考察
第89話は、湊という人間がなぜこれほどまでに「いい人」であり、同時にどこか掴みどころのない空虚さを抱えているのか、その根源に触れる重要なエピソードでした。
幼少期から、特定の誰かを標的にして「嫌ってもいい」「悪く言ってもいい」という負の連鎖を生み出す大人や周囲の空気に晒されてきた湊。彼が抱いた「人を蔑むことへの強い嫌悪感」は、彼を誰にでも平等に接する聖人君子に育て上げた一方で、彼の内面を非常に孤独な場所に追いやってしまったのだと感じます。
湊が嫌われている人間や孤立している人間にそっと手を差し伸べるのは、純粋な正義感だけではなく、「誰かが誰かを蔑む空気」そのものを否定し、場の均衡を保とうとする「バランサー」としての本能だったのでしょう。
ヘイトの矛先を逸らし、誰もが素直に受け入れられる場所を作る。その振る舞いによって彼は誰からも好かれる存在となりましたが、皮肉にもその「全肯定」の姿勢こそが、彼にとって「好き」という感情の特別さを奪ってしまったように見えます。
相手が自分を嫌っても「それはそれだけ」と割り切り、誰に対しても等しく好意を向けられるということは、裏を返せば「誰に対しても決定的な執着を持っていない」ということでもあります。
彼にとって「人を好きになること」が日常の一部であり、特別なことではなかったという事実は、これまで小雪や桃香が彼に対して抱いてきた切実な想いと対照的で、非常に残酷に響きます。誰にでも優しい「バランサー」としての生き方は、湊自身が自分の本心や「たった一人の特別な存在」を見つけ出すための感性を、麻痺させてしまっていたのかもしれません。
湊の優しさが、実は彼自身の魂を守るための防衛本能であり、同時に彼を縛る呪縛でもあったという真相は、物語に大きな問いを投げかけています。
すべてを受け入れてしまう彼が、初めて「誰かを特別に想い、他の誰かを切り捨てる」という痛みを知ったとき、彼は本当の意味で自分の人生を歩み始めるのではないでしょうか。湊という人間の深淵を覗き込み、彼の抱える「空っぽの優しさ」の哀しみに胸が締め付けられるような、重厚な回でした。
負の連鎖を拒絶する「バランサー」の宿命
湊が幼少期に目撃してきた、誰かを標的にして「嫌ってもいい」と断じる周囲の冷酷な空気。それに対する強い嫌悪感こそが、彼を誰にでも平等に接する「いい人」へと変貌させました。特定の誰かにヘイトが集中することを防ぎ、場の平穏を保とうとする彼の振る舞いは、周囲を救う救世主的な役割を果たしながらも、同時に彼自身を「調和を維持するための機能」として縛り付けてしまった悲しき生存戦略のように感じられます。
「全肯定」の裏側に隠された無執着という孤独
誰からも好かれ、誰をも受け入れる湊の器の大きさは、裏を返せば「誰に対しても決定的な執着がない」という残酷な真実を内包しています。
相手に嫌われても「それはそれだけ」と割り切れる強さは、自分の心が深く傷つくことを回避するための防衛本能であり、彼が他者と本当の意味で深く結びつくことを阻む高い壁となっています。
誰に対しても優しいという美徳が、彼自身をどこにも居場所がない孤独な場所に留めている皮肉が浮き彫りになりました。
「特別」が欠落したままの空虚な愛情
彼にとって「人を好きになること」が日常に溶け込んだ当たり前の行為であり、特別なことではなかったという事実は、彼を想う小雪や桃香の熱量との決定的な温度差を感じさせます。
他者の個性を尊重しつつも、心の一番深い場所を誰にも明け渡さない湊。
この「特別」の欠如こそが、彼という人間を掴みどころのないものにしていました。
すべてを受け入れる彼が、初めて「誰かを失いたくない」と渇望する瞬間にこそ、彼の本当の物語が始まる予感がします。
以上、第89話「バランサー」の感想考察でした。
次の話は、こちらの「氷の城壁」全話ネタバレ感想考察をどうぞご覧ください。


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